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【生徒指導】自己有用感を育てる

自尊感情」とは

 「自尊感情」とは、心理学用語のSelf Esteem(セルフエスティーム)の日本語訳です。一般的には、「自己肯定感」「自己存在感」の語などと、ほぼ同じ意味合いで用いられているようです。
 英語辞書でSelf-esteem を引くと、自尊心、プライド、うぬぼれ、…等の訳語が見つかります。元々は、プラス面もマイナス面も含んだ中立的な語であることがわかります。それを考えると、プラス面のみを想起させる「自尊感情」という訳語は名訳と言えるかも知れません。

 しかし、「自尊感情」を高めるべく大人が子供を褒める機会を増やしても、必ずしも好ましい結果をもたらすとは言えないのも事実です。そもそも褒める以前に叱ったり行動を改めさせたりすることから始めるしかない児童生徒に悩むことは、少なくありません。また、大人が褒めることで自信を付けさせることができたとしても、実力以上に過大評価してしまったり、周りの子供からの評価を得られずに元に戻ってしまったり、自他の評価のギャップにストレスを感じるようになったり、ということが起きうるからです。

社会性の基礎となる「自己有用感」

 「自尊感情」を高める取り組みは、日本でも広く実践されるようになってきました。例えば、「自分に自信が持てず、人間関係に不安を感じていたりする状況が見られたりする」 という指摘を受け、その対策として“ 子供の「自尊感情」を高めることが必要” と主張される事が一般的になりました。確かに、落ち着きがない、反抗的な言動が多い、集団に適応できない子どもや、不登校状況になっていく子どもに、「自尊感情」の欠如が共通点として見られます。

 日本の学校教育では、児童生徒の「規範意識(きまり等を進んで守ろうとする意識)」の育成も重視しています。それは、集団性や社会性を育てることに力を入れているからです。このことを考えるなら「自己有用感」の育成を目指すことにが、児童生徒の健全育成には有効性が高いと言えるでしょう。

 人の役に立った、人から感謝された、人から認められた、という「自己有用感」は、自分と他者(集団や社会)との関係を自他共に肯定的に受け入れられることで生まれる、自己に対する肯定的な評価だからです。

※良かれ悪かれ日本の児童生徒の場合には、他者からの評価が大きく影響する。

 

「自己有用感」を育てる

 「自己有用感」は、他人の役に立った、他人に喜んでもらえた、…等、相手の存在なしには生まれてこない点で、「自尊感情」や「自己肯定感」等の語とは異なります。
最終的には自己評価であるとしても、他者からの評価やまなざしを強く感じた上でなされるという点がポイントです。単に「クラスで一番足が速い」という自信ではなく、「クラスで一番足が速いので、クラスの代表に選ばれた。みんなの期待に応えられるよう頑張りたい」という形の自信です。その意味では、「クラスで一番」かどうかはさほど重要ではなくなっている、とさえ言えます。

【ポイント】

①他者の存在を前提としない自己評価は、社会性に結びつくとは限らない。
② 「自己有用感」に裏付けられた「自尊感情」の育成が大切。
③ 「褒めて(自信を持たせて)育てる」という発想よりも、「認められて(自信を持って)育つ」という発想の方が、子供の自信が持続しやすい。
※「自己有用感」の獲得が「自尊感情」の獲得につながるであろうことは、容易に想像できます。しかしながら、「自尊感情」が高いことは、必ずしも「自己有用感」の高さを意味しません。あえて、「自己有用感」という語にこだわるのは、そのためです。

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文部科学省国立教育政策研究所『生徒指導リーフ Leaf.18』参照)