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【学力向上】改めて「言語活動の充実」について考える

一丁目一番地といわれた「言語活動の充実」

 小学校では2011年(平成23年)度、中学校では2012年(平成24年)度から完全実施されてきたこれまでの学習指導要領の中で、「一丁目一番地」(中核的重要項目というような意味)と言われたのが「言語活動の充実」です。

 全ての教科等において配慮するべき教育課程実施上の事項として、『総則編(解説)』の第5節の中のトップに「1 生徒の言語環境の整備と言語活動の充実」が謳われていました。
「言語活動の充実」は、学力向上を考える上でも、重要だと位置づけられてきました。

新しい学習指導要領と「言語活動の充実」

  小学校では今年度から、中学校では来年度から完全実施される学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)が全面で出て強調されています。「言語活動の充実」について語られることが少なくなりましたが、『総則編(解説)』の第3節教育課程の実施と学習評価の中に「3 言語環境の整備と言語活動の充実」という項目が設定されており、引き続き重視されていることが分かります。

 目的化した「言語活動の充実」

  前回の学習指導要領改訂後、多くの学校で「言語活動の充実」に向けた実践がなされてきました。研究テーマにしている学校も大変多かったです。反面、言語活動自体が目的化してしまうというマイナス面が指摘されるようにもなりました。その例として、文部科学省 冨山調査官(当時)のコメントを紹介します。

 

 ある小学校の校内研修会に招かれたときの話である。各教科等における言語活動の充実に関連して、私はその学校の先生方に次のような質問をした。

 「今、社会科で『話合い』という言語活動をするとします。どんな話合いがいい話合いだと思いますか。」すると、先生方は、こうお答えになった。「司会がうまく進行している話合と「話をしている人の声がよく聞こえている話合い」「お互いに人の話をよく聞いていて、必要だと思うことはメモしているような話合い」…。

 私は、この答えに対してこうコメントした。「確かにいい話合いですね。でも、先生方がおっしゃったのは、国語科としていい話合いです。今は社会科の授業なので、社会科の力を付けるために話合いをするわけです。だから、社会科としていい話合いとは何かということを考えないといけません。」

 このことは、すべての教科等について言える。その教科等におけるいい話合いとはどのようなものかということを考えて、話合いをさせる必要がある。

「言語活動の充実」が求められてきた背景

  そもそも言語活動の充実が強調されてきたのは、日本の若者の特徴として「知識・理解」「技能」に比べて「思考力・判断力」に課題があるということが背景にあります。ですから、言語活動を通して、その教科の「思考力・判断力」と結びついた「表現力」が求められてきたのです。
 大切なのは、「言語活動の充実」を通して、その教科本来の力(「思考力・判断力」等)を高めていくことが大切なのです。言語活動を通して、どのような力をつけていくのかのゴールイメージを明確にした上で、授業を設計していくことが求められているのです。

国語を要とした各教科の言語活動の充実

 学習指導要領にも「国語科を要としつつ各教科等の特質に応じて、生徒の言語活動を充実すること。」とありました。学習指導要領の解説には、各教科での言語活動例が紹介されていました。例えば、保健体育では、「言語能力を育成する言語活動を重視し、筋道を立てて練習や作戦について話し合う活動や、個人生活における健康の保持増進や回復について話し合う活動などを通して、コミュニケーション能力や論理的な思考力の育成を促し、自主的な学習活動の充実を図ること」としています。

 忘れてはならないことがあります。それは、言語活動ばかりを意識する余り、体育の授業なのに話し合ってばかりで汗をかかない。音楽なのに話し合ってばかりで歌っていない…。というような授業にならないようにすることです。

 そしてもう一つ、言語活動という「アウトプット」のためには、「インプット」も重要であり、ただ話し合いをすることが目的となってしまったら、それは「活動あって学びなし」と言われる、いわゆる這い回る授業=学力的な高まりのない活動が目的となってしまっている授業になってしまうということです。

「主体的・対話的で深い学び」と「言語活動」

 新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進めることを求めています。その留意点として総則編では「各教科において通常行われている学習活動(言語活動、観察・実験、問題解決的な学習など)の質を向上させることを主眼とするものであること。」としている。このことからも、授業改善の方向性について「言語活動の充実」から「主体的・対話的で深い学び」に舵が切られたわけではなく、ここまでの成果である「言語活動の充実」を、今後も、授業改善の重要な要素として、引き続き重視していく必要があることを示しています。

 これまでの「言語活動の充実」向けた現場での取り組みから、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)についても、「言語活動の充実」と同様、子どもたちが「アクティブに活動すればよい」という表面的な受け止められ方をされかねない危惧がすでに指摘されています。  

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