次代を担うみなさんへ  

若手・中堅・管理職、これからの教育・学校を支えるみなさんに伝えたいこと。

【人材育成・教員養成】人を幸せにする学校~決して繰り返してはいけない事~

(1)決して繰り返してはいけない

 これは、西東京市の新任女性教諭:YKさん(当時24歳)が、母親に送った携帯メールの文章です。

 「毎日夜まで保護者から電話とか入ってきたり、連絡帳でほんの些細なことで苦情を受けたり…」
「泣きそうになる毎日だけど…でも私こんな気分になるために一生懸命教師を目指したんじゃないのに…おかしいね。今日も行ってきます」
   (『すべての教師のために。』YKさんプロジェクトより)

 希望に満ちて教職の道に進んだ彼女でしたが、このメールの一週間後に、自殺を図り大切な命を失うことになります。
 公務災害の認定を争った裁判では、「採用直後に担任したクラスで児童の問題行動が相次ぎ、強い心理的負荷を受けた」と指摘されました。加えて、保護者からの厳しい要望に応えきれなかったことや、周囲から救いの手が十分に差し伸べられず、一人で孤立していったことなどが分かってきました。
 極端な例かもしれませんが、このような思いを持つ教員が残念ながら沢山いる現実があります。中でも、将来有望なこれからという若手に多いのです。学級経営が困難になり、指導に疲れ、退職していく先生が毎年沢山います。
 教員も育っていくものです。「若い」「未熟」だというだけで、辛い思いを強いられ、傷つき学校を離れていく。そんな現状を変えていかなければなりません。(かつての学校や保護者には、教員を育てていこうという温かい空気がありました。)

(2)学級がうまく機能しない状況

 現在、生徒指導の課題の一つが、小学校における「学級がうまく機能しない状況」(いわゆる「学級崩壊」)が増えていることです。特に、小学校2・3・4年生に多い傾向なのは、そこに若手が配置されることが多いことや、児童の発達上の課題が顕在化しやすい年齢だからだと考えられます。
 学級が荒れる原因には、様々な要因が考えられますが、最近の共通している点として、集団に適応できない児童・生徒の増加があげられます。中でも、発達上の問題については、学校現場の大きな課題となっています。教育界全体で、真剣に取り組まなければならない大きな課題です。現在のシステム(※)では、ほとんどが現場の努力に任せきりにされている実情があります。

(3)何よりも命を大切に

 教育は、崇高で誇りあるやりがいのある仕事です。次代を担う若手の先生方には逞しく成長していってほしいと思います。かけがえのない子どもたちを かけがえのない先生たちが教え育てていく一期一会の営み、それが教育です。
 「命」を自ら失うようなことはあってはなりません。それは、子どもも教師も一緒です。そのような仲間を絶対に職場から出さない。そんな職場づくりの力に皆さんにはなってほしいのです。大変な思いを乗り越えてきた経験がある皆さんだからこそ、これから同じ道を歩む後輩たちの力になってあげてほしいのです。共に成長していく道を歩んでほしいのです。

(4)白い丸いテーブルが象徴するもの

 YKさんが、勤務していた学校の職員室には、以前、白い丸いテーブルがあり、茶菓子を食べながら、先生方が会話の花を咲かせる憩いの場になっていたそうです。ところが校長が変り、管理上好ましくないという理由からそのテーブルは撤去されてしまったそうです。それから、職員室にはギスギス感が漂い、先生方は職員室に戻らなくなり、次第に他の人のことなんかかまっていられないというよそよそしい雰囲気となっていったそうです。異動時には大量の先生の入れ替わりがあり、新任の彼女が着任した時も、大変な学年ということが分かっている中で、担任を受け持つことになったそうです。
 保護者からのクレームに苦慮する彼女は、管理職からも日々ちゃんと対応するように叱責されていたといいます。職員室でも誰も彼女を気遣う余裕を失っていたようです。彼女自身は、自分を責める気持ちや孤独感を感じるようになり、病院では抑うつと診断されました。そして、自ら命を絶つ道を選んでしまったのです。

 亡くなった彼女の父親は「もし、それまであった職員室の白い丸いテーブルが残っていたら…うちの娘は死ななくて済んだかもしれない」と語っていたそうです。白い丸いテーブルが象徴しているのは、その学校の大切にしてきた同僚性や協力性だったのではないでしょうか。一見無駄と思われる空間や時間の中で、じっくりとその学校の中で醸成されてきたものだったのかもしれません。子どもたちも先生方も「ゆとり」や「ネットワーク」があることでどれだけ救われるか分かりません。

(5)人を幸せにする学校

 『すべての教師のために』には次のようなサブタイトルがついています。「一人で抱え込まないで! 子供と保護者と教師の幸せを願って」
通う児童・生徒にとっても
通わせる保護者や地域にとっても
働く教員にとっても
関わるすべての人にとって、幸せな学校をつくっていきたいものです。私たちは、彼女の死を決して無駄にしてはいけません。

 【気になっていること】

文部科学省の調査結果(H24)によると、通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童・生徒の割合は全体の「約6.5%程度の割合で在籍している可能性を示している」としています。現場の実感としては、もっと多いように感じているのではないでしょうか。
 学校現場では、大きな課題となっていることにも関わらず、困ったことに、都道府県、市町村の教育委員会内では、この問題をメインに取り上げる部署が存在していないようです。指導・支援に関する部署、特別支援教育に関する部署、人事・採用に関する部署、研修に関する部署などが、プロジェクトを組んで、総合的に学校を救済するシステムを考えていく必要があります。それは、同時に、該当の児童・生徒を救い、保護者を救うことになると思うのです。この問題は、いじめ、不登校、問題行動、学力向上(学力格差)など様々な問題につながることなのです。

【追記】

YKさんの件については、小野田正利先生の講演会や著作物で多く触れられています。また、最近発刊された妹尾昌俊氏の『教師崩壊』の冒頭でも触れられています。改めてYKさんご冥福祈りいたします。

 

   【2020.6.30

f:id:schoolleader:20201024091145p:plain


公開記事のリライト】

にほんブログ村 教育ブログへ
にほんブログ村